NHK連続テレビ小説『虎に翼』で、男装の女性・山田よね役を演じ、その圧倒的な存在感で注目を集めた女優、土居志央梨さん。鋭い眼差しと、無駄のない洗練された動きに、「この俳優は何者なのだろう?」と興味を抱いた方も多いのではないでしょうか。
その佇まいの根源を探ると、彼女が幼少期から積み重ねてきた「クラシックバレエ」の存在に突き当たります。実は土居さんは、3歳から高校卒業までの15年間、人生のほとんどをバレエに捧げてきた本格派の経験者なのです。
この記事では、土居志央梨さんのバレエ経歴と、その経験が現在の女優業にどのような影響を与えているのかを深く掘り下げて解説します。なぜ彼女はバレエを辞め、演劇の世界を選んだのか。その決断の裏側にあった想いにも迫ります。
土居志央梨とクラシックバレエ|15年の研鑽が作った「女優の礎」
土居志央梨さんを語る上で欠かせないのが、15年という長きにわたるクラシックバレエの経歴です。特技の欄に「クラシックバレエ」と記載する俳優は少なくありませんが、彼女の場合はその密度が違います。
福岡県に生まれた土居さんは、わずか3歳の時にバレエを習い始めました。それから高校を卒業する18歳まで、生活の中心には常にバレエがありました。地元のバレエ団に所属し、本公演にも数多く出演。単なる習い事の域を超え、プロのバレリーナを目指して日々厳しいレッスンに明け暮れていたのです。
バレエという表現形式は、言葉を一切使いません。身体のライン、指先の角度、視線の配り方、そして音楽との調和。それらすべてを使って感情や物語を伝える訓練を、多感な時期に15年間も繰り返してきたことは、現在の彼女の「身体表現」の卓越さに直結しています。
3歳からのバレエ人生|プロを目前に下した「人生最大の決断」
高校卒業を間近に控え、多くの仲間がプロの道へ進む中、土居さんはある大きな決断を下します。それは、長年積み上げてきたバレエの道を離れ、未経験の「演技」の世界へ飛び込むことでした。
なぜバレエではなく演劇だったのか?
15年も続けてきたバレエを辞める決断は、決してネガティブな理由からではありませんでした。当時の彼女を突き動かしたのは、「このままバレエだけで人生を終わらせていいのか」という、純粋かつ切実な不安だったといいます。
バレエの世界は美しく気高いものですが、同時に非常に閉鎖的な側面もあります。練習と公演の繰り返しの中で、土居さんは「もっと広い世界を見てみたい」「自分にはまだ知らない可能性があるのではないか」と感じるようになりました。
高校3年生の夏、進路に悩み抜いた彼女は、パンフレットが一番きれいだったという理由で京都造形芸術大学(現:京都芸術大学)の門を叩きます。そこで出会ったのが、即興演劇(エチュード)のワークショップでした。それまで「声」を使わずに表現してきた彼女にとって、言葉を発して感情をぶつける芝居は、衝撃的なほどに楽しく、自由なものに映ったのです。
京都芸術大学での再出発と「役になりきる」喜び
大学進学後、土居さんは映画学科俳優コースで本格的に演技を学び始めます。一見するとバレエと芝居は全く別物のように思えますが、彼女の中では一つの線で繋がっていました。
バレエにおいても、ただ踊るだけでなく「妖精」や「お姫様」といった役になりきることが求められます。土居さんは、バレエの先生から常々「セリフを喋っているつもりで踊りなさい」と言われていたそうです。そのため、いざ演劇の世界に入ったときも「やっと声を出して喋れる!」という解放感こそあれ、表現の本質に対する違和感はなかったといいます。
入学して間もなく舞台の主演に抜擢されるなど、在学中からその才能は開花。バレエで培った集中力と、舞台上での度胸が、新人離れした演技力を支えていたのは間違いありません。
バレエ経験が息づく代表作|『虎に翼』よね役で見せた身体表現の真髄
土居志央梨さんの名をお茶の間に浸透させた『虎に翼』の山田よね役は、まさに彼女のバレエ経験が最大限に活かされたキャラクターでした。
山田よねの「静」と「動」を支える体幹
山田よねという人物は、周囲に媚びず、自らの信念を貫く強さを持っています。ドラマの中で彼女が立っているだけで放つ凄みは、バレエによって鍛え上げられた「体幹」から生まれています。
バレエ経験者は、静止している時の姿勢が非常に美しいのが特徴ですが、土居さんの場合はそこに「重厚さ」が加わっています。よねが男装をして、がに股気味に歩くシーンや、法廷で凛と立つ姿。それらの動作一つひとつに軸が通っており、ブレがない。これは一朝一夕の稽古で身につくものではなく、15年間の基礎練習が身体に染み付いているからこそ可能な表現です。
永瀬正敏も絶賛した「天性のリズム感」とは
映画『彌勒 MIROKU』で共演した名優・永瀬正敏さんは、土居志央梨さんのことを「幼い頃から培った天性のリズム感が、そのまま個性になってお芝居に表れている」と高く評価しています。
演技におけるリズムとは、単にセリフのテンポが良いということではありません。相手の芝居を受け、次に自分が動くまでの「間」や、感情が動く瞬間の「呼吸」のことです。音に合わせて身体を動かすバレエの経験は、無意識のうちに彼女に独特の「芝居の間」を授けました。これが、多くの監督や俳優を惹きつける彼女独自の魅力となっているのです。
土居志央梨のプロフィールと経歴|福岡から京都、そして全国区へ
ここで、土居志央梨さんの基本的なプロフィールと、これまでの主な歩みを整理しておきましょう。
土居志央梨さんの基本プロフィールは以下の通りです。
- 生年月日: 1992年7月23日
- 出身地: 福岡県
- 身長: 168cm
- 血液型: O型
- 学歴: 京都造形芸術大学(現:京都芸術大学)映画学科俳優コース卒業
- 所属事務所: ファザーズコーポレーション
大学在学中に林海象監督の映画『彌勒』でデビューして以来、数々の映画や舞台でキャリアを積んできました。2018年の映画『リバーズ・エッジ』での体当たりの演技や、朝ドラ『おちょやん』での富士子役など、着実に実力派女優としての地位を築いています。
168cmという高身長も、バレエ出身者らしいスタイルの良さを際立たせています。舞台映えするその容姿は、映像の世界でも強いフックとなり、唯一無二の存在感を放っています。
まとめ|土居志央梨にとってバレエとは「声のない対話」だった
土居志央梨さんにとって、15年間のバレエ経験は決して過去の遺産ではなく、今この瞬間も彼女の演技を支える血肉となっています。
「バレエ以外の世界を知りたい」と勇気を持って踏み出した一歩が、結果として「バレエの経験を最強の武器にする女優」という現在の姿を作り上げました。言葉を使わないバレエで学んだ「感情の乗せ方」と、大学以降で身につけた「言葉の力」。この二つが融合しているからこそ、彼女の演技には奥行きと説得力があるのでしょう。
『虎に翼』以降も、主演スピンオフドラマや映画『10DANCE』など、話題作への出演が続いています。特に社交ダンスをテーマにした『10DANCE』では、彼女の身体能力が再び脚光を浴びることになるでしょう。
かつてバレリーナを夢見た少女は、今、銀幕やテレビの中で、誰にも真似できないステップを踏み続けています。
土居志央梨さんの活躍をさらに深く知りたい方は、ぜひ過去の出演映画もチェックしてみてください。彼女のルーツを知ることで、作品の見え方がより一層深まるはずです。
次は、彼女が大学時代に全霊を注いだという映画『二人ノ世界』を鑑賞し、その瑞々しい演技の原点に触れてみるのはいかがでしょうか。
