92歳運転の事故で女性死亡…福岡の悲劇から、私たちにできること、高齢者運転の現状と今後の課題

2025年6月5日、福岡市東区で、とても胸が痛む事故が起きてしまいました。
92歳の男性が運転する乗用車が、74歳の女性をはねてしまい、尊い命が奪われてしまったのです。
この事故は、亡くなられた方やご家族にとって、計り知れない悲しみであることは言うまでもありません。
それと同時に、日本がこれから向き合っていかなければならない、高齢化社会における運転事故防止という大きな課題を、私たちに改めて突き付けているように感じます。

この記事では、まず福岡で起きた事故の詳細を振り返ります。
そのうえで、高齢ドライバーの方々を取り巻く現状、そして「今後の課題」として社会全体でどんな対策に取り組むべきなのか。
特に「免許返納」という選択肢について、その大切さと難しさも一緒に、皆さんと深く考えていきたいと思います。

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福岡で起きた悲しい事故、いったい何があったのでしょうか?

今回の事故は、私たちの身近な場所でも起こりうる、他人事ではない出来事として捉える必要があります。

事故はいつ、どこで起きた?

事故が発生したのは、福岡市東区香住ヶ丘にある、西鉄貝塚線の香椎花園前駅のすぐ近く。
時刻は、お昼過ぎの午後1時50分ごろ。
74歳財津千恵さんが、駅の改札に向かって道を渡っていたところ、92歳桐島正幸容疑者が運転する乗用車にはねられてしまいました。


車は財津さんをはねた後も、スピードが落ちないまま、道路脇のフェンスを突き破って線路の中にまで入って横転してしまったのです。
この事故で、財津さんは病院に運ばれましたが、約1時間後に残念ながらお亡くなりになりました。


桐島容疑者は、

容疑者

近くのお店で買い物を済ませて、家に帰る途中だった。車のスピードが出てしまって事故を起こした

と話しているそうです。


このことから、アクセルとブレーキの踏み間違いなど、運転操作のミスによって車が急に加速してしまった可能性が考えられています。

事故の影響は大きく、西鉄貝塚線が約2時間半もの間、運転を見合わせることになり、多くの方の移動にも影響が出ました。

高齢ドライバーによる事故、他人事ではありません

今回の福岡での事故は、決して特別なケースではないのです。
日本全国で、高齢ドライバーの方々が関わる交通事故は、残念ながら後を絶ちません。
統計データなどを見ながら、その現状を少し詳しく見ていきましょう。

高齢ドライバーによる事故、実はこんなに多いんです

警察庁の統計によると、2024年に起きた交通事故で亡くなった方の数は、全体としては減ってきている傾向にあります。

運転死亡事故で65歳以上高齢者が占める割合は、依然としてとても高い水準。半分以上を占めているのが現状。特に、75歳以上の運転手による死亡事故を見てみると、「操作不適」、つまり運転操作のミスが最も多い原因とされています。


ブレーキとアクセルの踏み間違い」は、75歳未満の運転手の方と比べて、格段に高い割合で発生していることが分かっています。
今回の福岡の事故も、まさにこの典型的なケースに当てはまる可能性があると指摘されています。
いつも運転している慣れた道であっても、年齢を重ねることで身体能力や認知機能が少しずつ変化し、それが思わぬ事故を引き起こすリスクにつながってしまうことがあるのですね。

みんなで考えたい「運転事故防止」と「今後の課題

このような悲しい事故を少しでも減らすために、私たちには何ができるのでしょうか。
国や自治体も様々な対策を進めていますが、それだけでは十分ではないという声も聞かれます。
免許返納」という選択肢も含めて、社会全体で取り組むべき「今後の課題」について考えてみましょう。

今、進められている対策にはどんなものがあるの?

高齢者の方による「運転事故防止」は、本当に待ったなしの課題です。
そのため、国や自治体も、いろいろな対策を進めています。
例えば、

  • ぶつかる危険を察知して自動でブレーキをかけてくれる「衝突被害軽減ブレーキ
  • ペダルを踏み間違えたときに急発進を抑えてくれる「ペダル踏み間違い時急発進抑制装置
  • 先進安全自動車(サポカー)」の普及

これらの対策を促しています。


運転手の方自身への呼びかけや、高齢ドライバーの方がご自身の運転能力の変化に気づくきっかけになるような「安全運転講習会」なども開催されています。
しかし、これらの対策だけでは、残念ながら十分とは言えないのが現状です。
例えば、運転免許更新時の「認知機能検査」で「認知機能が低下しているおそれなし」と判断された高齢者の方でも、死亡事故を起こしてしまうケースが後を絶たないという事実は、今の検査体制や対策だけでは限界があることを示しているのかもしれません。

免許返納」という選択、そしてその難しさ

そこで、とても重要になってくるのが「免許返納」という選択肢の促進です。
運転に少しでも不安を感じるようになった高齢ドライバーの方が、ご自身の判断で運転免許証を返納するこの制度は、事故を未然に防ぐための有効な手段の一つと考えられています。


免許を返納された方には、「運転経歴証明書」が交付されたり、バスの運賃割引など、いろいろな支援サービスが提供されたりしていて、返納しやすい環境づくりも少しずつ進められています。
しかし、免許返納には、実は大きな壁があるのです。

高齢者

免許を返したら、病院や買い物に行けなくなってしまう…


高齢者

電車やバスなどの公共交通機関が少ないから困る…


このように、車が生活に欠かせない移動手段となっている場合が多く、一律に免許返納を促すだけでは、なかなか問題の解決にはつながらないのが実情です。

これからの社会で、私たちができること

この「今後の課題」を解決するためには、個人の判断や努力だけに頼るのではなく、社会全体で、事故を防ぐための仕組みをしっかりと作っていく必要があります。

運転事故防止のための今後の課題
  1. 運転を続けても大丈夫か客観的かつ定期的に判断できる、公的な診断制度の充実
  2. 車の代わりになる移動手段の強化

例えば…

  • 地域の中をきめ細かく回るコミュニティバスの運行の支援
  • 利用者の要望に応じて運行するデマンド交通システムの導入
  • 安い料金で利用できるシェア交通サービスの整備


免許返納後の生活の不安を少しでも和らげ、高齢者自身の意思で返納する方を後押ししていくことが必要ですね。


福岡で起きた92歳運転手の死亡事故は、被害に遭われた方とご遺族にとって、取り返しのつかない悲劇であったと同時に、私たち社会全体に対して、高齢者の方々の安全な移動をこれからどうやって確保していくのかという、とても重い課題を突き付けています。

この痛ましい事故を教訓として、私たち一人ひとりが交通安全への意識をさらに高め、高齢化が進む社会の中で、みんなが安心して暮らせるような共生の形を真剣に探し続けていくことが、今、強く求められているのではないでしょうか。

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